子どもが育つ魔法の言葉(ドロシー?ロー?ノルト著/レイチャル?ハリス著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2018.06.01

書名 「子どもが育つ魔法の言葉」
著者 ドロシー?ロー?ノルト、レイチャル?ハリス
訳者 石井 千春
出版者 PHP文庫
出版年 2003年9月1日
請求番号 379.9/70
Kompass 書誌情報

「魔法の言葉」なんて子育てにあるか、という意見もあるのだが、この本は、ウィリアムやスージー、ケイトやフランクなどの普通の子どもたちがたくさん出てきて、その子たちがどんな葛藤や悩みをかかえているかをまざまざと描いている。そういう子どもから話をよく聞き、励まし、誉めて自信を持たせることが大人の役割です、というのが著者のノルトが説いていることだと思える。

誰かに叱られるから、ではなく、自分で自分が許せないこと、自分の自尊心が許せないことはできないという子どもを育てること。そのためには、子どもが心の中に自己像、自己愛を形成しなければならず、親や大人たちはそのために言葉をかけなさいということが語られている。

子どもは未来のための宝物であり、戦争や飢餓や差別が少ない社会、「地球上のすべての人々が人間という家族になれる未来」を子どもたちに残す(261頁)。これがノルトにとって大人の責任なのである。

こう書くとノーテンキな思想家に見えそうだが、彼女の現状認識は厳しい。現代社会には敵意、暴力、戦争、殺人、凶悪な犯罪、子どもどうしや兄弟どうしのいじめなどがあふれていると言う。それをテレビや学校でさんざん見せつけられている子どもは不安になり、その不安から逃れるために強くなろうとして乱暴になると言う(41頁)。

また、家庭は競争原理で動く場であってはならないとも指摘する(219頁)。競争原理に従えば「経済の厚生」は最大化するという経済理論がはやっているだけに、紹介しておきたい。

さて、この本のなかの「子どもたち」を見ていると、どうしても目の前にいる「学生たち」に置き換えて考えてしまう。教え子たちの本物の誉め方、励まし方をさがしつづけるのが大人です、とノルトに言われたような気がしている。

経済学部 教授 小林 正人

< 前の記事へ | 次の記事へ >