山田先生とマネー番組をはじめたら、株で300万円儲かった(浅野真澄、山田真哉著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2022.05.01

書名 「山田先生とマネー番組をはじめたら、株で300万円儲かった」
著者 浅野 真澄、山田 真哉
出版社 扶桑社
出版年 2016年9月
請求番号 338.1/573
Kompass書誌情報

本書は、声優であり、『逝ってしまった君へ』(小学館、2021年)の著者として話題の作家でもある浅野真澄さんと、公認会計士?税理士であり、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?――身近な疑問からはじめる会計学――』(光文社、2005年)の著者として名高い作家であり、登録者数40万人以上のYouTuberでもある山田真哉さんによるものです。前記の両書と同じく、紙媒体の書籍だけではなく、電子書籍版も販売されていますので、お気軽にお読みいただけます。大きなインパクトがありつつも少々胡散臭そうなタイトルとは裏腹に、あくまでも基本的な投資等に関する知識や考え方について、浅野さんが山田さんから対話形式で一から学ぶというものです。

本書について、次の2点から、特に学生の皆様には是非ともお読みいただきたく存じます。

第1に、FRB議長、ECB総裁や東証市場区分等、現在では若干古くなった情報も扱われているため、注意する必要があるのですが、それを補って余りあるほど、投資等に関する知識や考え方ついて、予備知識のない方にも非常に分かりやすく解説されています。特に近年では、学生の皆様をはじめとした若年者において、こうした知識や考え方が、より一層重要なものとなりつつあります。すなわち、成年年齢を引き下げる民法改正の施行を受け、証券会社では、2022年4月に、成年口座を開設できる年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられました。また、2023年1月にはNISA口座を開設できる年齢も同様に引き下げられる予定です。その一方で、こうした年齢の引き下げにより、若年者が投資等に関するトラブルや搾取に巻き込まれやすくなるリスクも指摘されています。こうした指摘等を受け、2022年4月には、高校において金融教育が必修化されました。このように、学生の皆様をはじめとした若年者においては、今まで以上に投資等に関する知識や考え方が求められてきている中で、本書で解説されている基本的な知識や考え方が最低限必要なものとなってきているのです。

第2に、本書の最後では、浅野さんが、投資等について一から学んだ結果として、「知識が増えることで、それまで漠然と感じていた不安が減り、世界がほんの少しだけ、クリアに見えるようになりました」としたうえで、「勉強するのに、遅すぎるということはない!」、「私も勉強を続けます。ぜひ、あなたも」と呼びかけています(218-219頁)。本書を契機として、投資、政治、経済や社会等について関心を持って学んでいくだけでも、これらの言葉の意味を少しずつ理解できるようになっていくはずです。

ところで、私は憲法学について研究しているのですが、2022年5月3日の憲法記念日は、日本国憲法の施行から75年の記念日です(なお、2021年11月3日の文化の日は、日本国憲法の公布から75年の記念日でした)。その日本国憲法は、第13条において、「すべて国民は、個人として尊重される」としており、いわゆる個人の尊重原理を定めています。この原理は、国家に対し個人を個人として尊重すべきとするものであり、また、個人が互いに個人として尊重しあうこととする理念を基礎とするものです。そのうえで、日本国憲法は、第23条において、「学問の自由は、これを保障する」とし、また、第26条において、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」としています。これらの条文を受け、最高裁判所の判決においては、第23条が「学問的研究の自由とその研究結果の発表の自由」を「広くすべての国民に対して」保障する趣旨のものとされており(最大判昭和38年5月22日刑集第17巻4号370頁(東大ポポロ劇団事件判決))、また、第26条「の背後には、国民各自が、一個の人間として、また、一市民として、成長、発達し、自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする固有の権利を有すること......が存在していると考えられる」とされています(最大判昭和51年5月21日刑集第30巻5号615頁(旭川学力テスト事件判決))。なお、以上における「国民」という文言は、外国人を含む全ての人を指すものです。

こうした条文や判決から、憲法学において、学びというのは、全ての人が個人として尊重されるとする原理に基づき、児童、生徒、学生や研究者等だけではなく、老若男女問わず広く保障されるものであると考えられていることを読み取ることができます。

特に学生の皆様には、浅野さんの言葉や憲法学における考えを踏まえ、学びというのは、試験に合格したから、進路が決まったから、または、卒業したから終わるというものでは決してなく、全ての人が自律した個人として主体的に自分らしく生きていくために、生涯続けていくことができ、また、続けていくべきものなのだという意識を是非ともお持ちいただきたく存じます。こうした意識は、とりわけ、コロナ禍をはじめ、多くのデマや陰謀説等の飛び交う有事において、または、SNS等を通し、玉石混淆の情報源からもたらされる自己に都合の良いものに偏った情報に接する機会の増えてきている中で、特に強く求められるものなのです。

法学部 講師 奥 忠憲

< 前の記事へ | 次の記事へ >