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九州北部豪雨の背景

豪雨の前日に台風3号が九州北部を通過しました。台風が去った後に南下してきた梅雨前線が大雨の主原因です。

梅雨前線の南側は、湿った蒸し暑い空気に満たされているので、雷雲(積乱雲)が発達しやすい気象条件です。7月5日未明から早朝にかけて島根県で激しい雨が降り、午前中は広島県で激しい雨が降りました。九州北部では午後になってから雨脚が強まりました。

下層暖湿流

500m付近(950hPa)の暖湿気の様子です。図に表現されているのは、「相当温位」と呼ばれる物理量で、水蒸気分を温度換算して気温に加え、絶対温度(K)で表します。図は午前3時を初期値として、正午を予想したもので、梅雨前線の南側に345K以上の蒸し暑い空気が充満することを示しています。345Kという値は、かなり不安定な状況で、暖湿気が少し持ち上げられただけでも、活発な雷雲が成長する危険をはらんでいます。なお、345K以上の地域はどこでも大雨となるわけではありません。この図から「どこで」大雨になるかについて、市町村単位のスケールで予想することはできません。(藤富郷氏提供)

大雨原因の考察

 

7月5日の九州北部は、梅雨前線の南側に位置し、①地表面付近(下層)では、西南西方向から暖湿気(湿った蒸し暑い空気が流れ込んでいました。蒸し暑い空気は雨雲の素となります。さらに、②上空5500付近(500hPa)には、西方から-6℃以下の寒気が流れ込んできました(平年より2度低い)。下の空気が蒸し暑く、上空が冷たいと、大気の状態がとても不安定で、対流(上下方向の空気の入れ替え運動)が起こりやすくなります。そして、上昇気流が活発な雷雲(積乱雲)を発達させます。

九州北部のこの日の気温分布は、西側が真夏日(30℃)になるほど高温で、東側は相対的に低温でした。両者の境界付近(福岡県筑後地方)には、③局地的な前線が形成されたようで、西南西からの暖湿流が東側の冷気の上に乗り上げて(上昇気流を作り)、雨雲を発生させました。

この日の朝は、広島県など中国地方で激しい雨が降って、瀬戸内海周辺の気温が低下していました。最高気温の出現時刻を調べてみると、④周防灘より冷気の範囲が徐々に拡大していった様子がわかります(冷気の侵入と降水によるとみられる)。

周防灘からの冷気の扇端が福岡県の筑後地方に達した正午頃、⑤激しい雨を降らせる降水帯が形成され、朝倉市や日田市に激しい雨が降るようになりました。個々の雨雲の動きは、上空の風向きと同じ、西から東に移動しました。⑥降水帯は南北にはあまり動かなかったので、⑦継続的に流れ込む下層暖湿気を雨雲の素として、同じ地域で激しい雨が降り続いたことになります。

背振山地の影響(気象研究所の再現実験)

気象研究所が行った数値シミュレーションの結果です。5日9時の初期値とした12時~15時の雨量を地図化したものです。なお、図中の三桁の数字は、降水量ではなく、標高です。地形の影響を見るために、背振山地をなくして再計算してみたものが右図です。背振山地を省いても、帯状の大雨の範囲は再現されました。左右の図の比較から、降水帯の形成には背振山地の存在はほとんど関係ないことがわかります。なお、左図の計算上の最大値は、194mm/3hとなっています(左図)。アメダス朝倉の12時~15時の雨量は202.5mm/3hなので、妥当な値です。但し、朝倉市の山間部では12時~15時の雨量が284ミリ/3hに達したところもあり、局所的な大雨の予想が難しさを感じます。

速報として、急ぎ作成したものがあります。数値等に誤りを含む場合も想定されます。

このたびの災害で被災された方にお見舞い申し上げます。

駒澤大非常勤講師 平井史生(fumio●あっと まーく●komazawa-u.ac.jp)