令和6年能登半島地震(2024年1月1日16時10分発生)
本ページは防災教育用の地理教材として作成したものです。作成者は地震学の専門家ではありません。
【各地の震度】
1日16時06分に「最大震度5強」の強い地震があり、その4分後の16時10分に「最大震度7」の大きな地震がありました。 直前の前震は北陸地方を中心とした有感地震にとどまりましたが、本震では関東や東海、近畿でも有感地震となりました。 (気象庁WEB)
各地の震度は気象庁速報によるもの地名の後の*は発震時に震度のデータが得られなかった地点 気象庁発表地震津波電文初出は赤、情報更新は紫
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【大津波警報】
気象庁は石川県の能登地方に「大津波警報」を発表しました。 大津波警報の発表は2011年3月11日の東日本大震災以来です。 大津波警報は、海岸線付近で3mを超える津波が想定される場合に発表されます。 伝わりやすい数値として、「5m」「10m」「10m以上」の3区分で発表されます。 2014年能登半島地震の大津波警報は「5m」として発表されました。 |
「津波警報」は、1mを超えて3mまでの津波が想定される場合に発表されます。 伝わりやすい数値として、「3m」として発表されます。 |
「津波注意報」は、20㎝を超えて1mまでの津波が想定される場合に発表されます。 伝わりやすい数値として「1m」として発表されます。 養殖いかだが流されたり、係留しているボートが転覆したりします。 陸上には被害は及ばない想定ですが、東日本大震災の反省もあり、報道機関は速報で伝えます。 |
気象庁が発表する津波の高さは、平常潮位(津波がない時の海面)からの高さで表します。 (気象庁WEB) |
【潮位観測】*図をクリックすると拡大図が表示されます。
気象庁WEBで公開された潮位観測グラフです。地震が発生したのは16時10分です。 もともとは台風接近時などの高潮用の閲覧ページで、黄色線が高潮注意報基準、赤色線が高潮警報基準です。 橙色曲線が天文潮位です。 潮位を測る施設の事を気象庁では「検潮所」、海上保安庁では「験潮所」、国土地理院では「験潮場」と呼んでいます。 珠洲市外浦では、地震の揺れがあまりにも大きかった為に、データが得られていません。 輪島港も同様で、120㎝まで上昇したまま横ばいになっており、データを信頼してよいのか悩みます。 富山、金沢に到達した津波の波形をみると、富山では第2波、金沢では第4波が最大だったようです。 京都大学防災研による現地調査によると、珠洲市では最大4.7mの浸水高?遡上高(天文潮位ベース)が確認されています。 能登半島北部では、大津波警報(3m超え)の津波が押しよせたと考えられます。 参考:森信人?宮下卓也(京大防災研)?安田誠宏(関西大)?福井信気(鳥取大) 2024年能登半島地震、現地調査及び数値計算結果に基づくまとめ 津波最大波の到達時刻と津波最大波【気象庁による速報値】
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【震央分布】
本震発生から48時間後までの震度1以上の震央分布です。 気象庁「震度データベース検索」から地図表示させたものです。 能登半島では2007年に輪島市を中心とした大きな地震を経験しています。 また2022年と2023年には珠洲市を中心とした大きな地震がありました。 2024年元日地震による余震域は、これらの震源域を含む広い帯状の範囲で発生しています。 2024年能登半島地震のエネルギーは、2022年珠洲地震の1995倍、2023年珠洲地震の45倍、2007年輪島地震の11倍になります。 円の大きさは地震の規模、色は震源の深さをあらわしています。(凡例は下の図に載せています) (気象庁WEB、震度データベース検索で地図表示、過去の地震について重ねあわせ加工) |
【熊本地震との比較】
地震発生72時間後までのM3.0以上の震央分布です。 気象庁が公開している「震源リスト」をダウンロードし、kmlデータに加工し、地理院地図「陰影起伏図」に重ねたものです。 能登半島地震震央kml(2024年1月1日16時~4日16時、35.5~38.5N、136.0~139.0E、M3.0以上) 熊本地震震央kml(2016年4月14日21時~17日21時、31.0~34.0N、129.3~132.3E、M3.0以上) 余震分布域の形状は、2024年能登半島地震も2016年熊本地震もよく似ていて、南西から北東に帯状に広がっています。 幅は能登半島地震の方が広いようです。(断層面がより水平?) 2024年能登半島地震で震度6強以上の強い揺れにさらされた人口は、 概算で12万程度と考えられますが、これは熊本地震の6分1くらいです。 直接死は熊本地震の4倍を超えており、人的被害密度の高い地震災害となっています。 関連死を増やさないように、2次避難(被災地からの避難)が行われました。
※2:南阿蘇村西部、西原村、益城町、御船町、嘉島町、熊本市東区、熊本市南区、熊本市中央区 熊本市西区南部、熊本市北区南部、宇城市東部、宇土市東部 |
【津波被害】
石川県珠洲市宝立町春日野?鵜飼地区(ほうりゅうまち) (地理院地図) 地震後の空中写真撮影は1月2日です。 日本地理学会災害対応委員会による空中写真判読によると、海岸線から500m程度、津波が内陸に及んだようです。 川(鵜飼川)が濁っているようです。 右下にある島が「見附島」です。その様相から「軍艦島」とも呼ばれます。(珠洲市観光サイト) 北國新聞?富山新聞によると、見附島は本震とその後の余震により大きく崩落したようです。 空中写真:国土地理院津波浸水推定範囲:日本地理学会災害対応委員会 北國新聞?富山新聞(2004年1月5日、「名勝「見附島」半分に住民落胆「もう軍艦島じゃない」能登半島地震で崩落」) |
【河道閉塞】
輪島市町野川西?金蔵付近(地理院地図) 地震後の空中写真撮影は1月2日です。崩壊の範囲を赤線でトレースしてみました。 斜面が崩壊して土砂が道路を覆い、川の流路をふさいでいます。その結果、水が溜まり天然のダムが形成されています。 空中写真:国土地理院 |
【海岸隆起】
輪島市白米の千枚田(しらよねのせんまいだ)(地理院地図) 地震後の空中写真撮影は1月2日です。 能登半島北岸は、地震により、3~4m隆起したとみられています。 日本地理学会による空中写真判読によると、海岸線が50m程度、海側に後退したようです。 棚田の風景がとても美しいところです。(輪島市、白米千枚田景勝保存協議会) 朝日新聞デジタル記事によると、無数の亀裂が入っているとのことです。 4月中旬に棚田にうまく水が張れるか心配されています。 空中写真:国土地理院海岸隆起推定範囲:日本地理学会災害対応委員会 朝日新聞デジタル記事(2024年1月20日「無数のひび割れに「ため息しか…」輪島「白米千枚田」修復には時間) |
【大規模火災】
輪島市河合町の大規模火災(地理院地図) 地震後の空中写真は1月11日です。 地理院地図で計測してみると焼損面積は51、206平方メートル(5.1206ヘクタール、226m四方)とみられます。 駒澤大学(駒沢キャンパス)の敷地50、902平方メートルと同じくらいの範囲が焼失しました。 糸魚川大火(2016年12月22日、約42、000平方メートル)より広い範囲が焼失しました。 なお、阪神淡路大震災(1995年1月17日地震発生)では、神戸市長田区だけで835、858平方メートルが焼失しています。 焼損区域内の東西道路が「朝市通り」で、観光名所です(輪島朝市)。 大津波警報が発表され、消火活動よりも避難が優先されたとみられます。 断水により消火栓から給水も困難を極めたようです。出火場所についてはよくわかりません。 地震発生時(16時10分)は北西の風(1.3m/s)が吹いていましたが、16時20分には西風に変わり、16時40分以降は南風となりました。 空中写真:国土地理院 |
【死者の年齢分布】
令和6年能登半島地震における死者の年齢分布 石川県が公表した資料より作成しました(2月19日段階、第1報~第13報)。 地震による死者のうち、性別年齢が確認できた138人(57%)をグラフ化しています。 上記グラフに示した138人のうち、7割以上が65歳以上、半数以上が75歳以上です。 直接死と関連死については分けられていないとみられます。 (比較) 熊本地震の死者の年齢分布(直接死50人のうち35人の年齢分布) 石川県WEB「緊急時トップページ」、お亡くなりになった方の氏名等よりデータを得て、縦棒グラフ作成 |
甚大な災害が発生した際には、人的被害の情報収集に遅れが生じます。 大津波警報が発表され、多くの人が高台に避難している状況での安否確認も困難がともないます。 通信回線が途絶して、被害の全容をつかめるまで時間がかかりました。 地震発生約5時間後の2日1時段階での確認死者数は4人、発震約8時間後でも6人、発震21時間後で30人でした。 地震発生6日後(7日午後)の段階でも全体の死者数の半数程度しか把握できませんでした。 早い段階で人的被害をつかんでおくことは救助?救援の初動で重要なことです。 たとえば、アメリカ地質調査所は、大地震が発生した場合に、 人的被害を推計したヒストグラムを公表しています。(能登半島地震の人的被害予測の例 USGS) 石川県:(令和6年能登半島地震の)被害状況について第1報~第90報)より死者数データを得て累積グラフを作成 |
【道路の被害】
詳細な地図は(こちら) 道路被害地点KML(こちら) 市役所町役場連絡ルートKML(こちら) 道路の被害状況について、国土地理院公開の空中写真から読み取りました。 がけ崩れによって、道路上に土砂が堆積していたり、地すべりによって路盤が崩落したりしていました。 路面に大きな亀裂が入ったり、陥没しているところもありました。 道路全体に支障が出ている場合を×、道路の一部に支障が出ている場合を△で記入しました。 2時間ほどかけて、くまなく見ましたが見落としがあるかもしれません。 主に1月2日の空中写真を参考にしましたが、雲があったりしてみえなかった場所もあり、 1月5日、11日、14日、17日の空中写真も参考にしています。 被害が確認できたのは110か所ありました。なお、上図の被害ポイントは、道路の被害のみを表現しています。 もちろん、道路が通じていない山の斜面に多数の土砂災害が確認できました。 のと里山海道は、七尾市北部から穴水町、輪島市南部にかけて、被害か所が多数あります。 特に道路の陥没が目立っていた印象があります。 能登半島をぐるりと一周する国道249号は、輪島市内に被害が集中していました。 特に北海岸では大規模ながけ崩れが発生しており、完全復旧にはかなりの日数が必要と思われます。 ピンクのラインは、地震発生翌日(2日)午後の通行可能道路です。 防災拠点となる市役所?町役場までのルートはなんとか確保できていましたが、 孤立集落が多数あり、ヘリコプターによる救助活動も行われました。 道路の被害状況を早い段階でつかむことは救助?救援活動の初動で極めて重要です。 救助部隊を派遣する場合も救援物資を送る場合もどの道路が通れるかを把握する必要があります。 空中写真、ドローン撮影画像、人工衛星画像などを活用して、地図上で整理し、 情報を共有することが必要です。 国土交通省では統合災害情報システム(DiMAP)を公開していましたが、最近の更新がないようです。 防災科学研究所が公開している防災クロスビューでは、情報の集約が行われ、 即時性も重視しているので、災害対応時に有用です。 国土交通省では「道路復旧見える化マップ」を公開しています。 一部のデータについては1月12日以降についてダウンロードでき、 後日、復旧の過程を振り返ることもできます。 (背景地図は地理院地図、淡色地図に陰影図を薄くかさねたもの) |
【加賀と能登】
加賀と能登について、面積に大きな差はありませんが、人口は加賀に偏っています。 人口は石川県による「住民基本台帳」の2024年1月1日段階のもの。 面積は国土地理院による「全国都道府県市区町村面積調」の2023年10月段階のもの ※能登半島北海岸で隆起しているので、今後の測量で面積が拡大するかもしれません。 【能登】珠洲市、輪島市、能登町、穴水町、七尾市、志賀町、中能登町、羽咋市、宝達志水町 【加賀】かほく市、津幡町、内灘町、金沢市、野々市市、白山市、川北町、能美市、小松市、加賀市 |
【人口増減と高齢化】
図にマウスポインタを重ねると高齢化率に変わります。 かほく市?津幡町から南が「加賀」、宝達志水町より北側が「能登」になります。 2000年から2020年にかけての人口増減率は、加賀では増加の市や町が目立ちますが、 能登ではすべての市や町が減少しています。特に、珠洲市や能登町では3割以上も人口が減っています。 【人口増減率】珠洲-34.9%、能登町-33.7%、穴水町-29.97%、輪島-28.7%) ちなみに全国の20年間(2000年から2020年)の人口増減率は、-0.6%です。 2020年段階での高齢化率は、加賀では全国平均(28.8%)以下の市や町が目立ちますが、 能登ではすべての市や町が30%以上で、特に、珠洲市と能登町は50%以上です。 【高齢化率】珠洲市51.7%、能登町50.4%、穴水町49.5%、輪島市46.3%) (国勢調査データを利用しMANDARA10で作成) |
【停電】
北陸電力によって発表された停電戸数です。 発災直後(1月1日)は、石川県内で32、640戸が停電しました。13日後(14日)には7割以上が復旧していますが、 能登半島の珠洲市や輪島では復旧が遅れていることがわかります。 (北陸電力WEB公開データを用いて、MANDARA10により作成、PAINTソフトで加工) |
【断水】
石川県内の断水状況(1月21日段階) 石川県発表によるものです。能登3市3町(輪島市、珠洲市、七尾市、能登町、穴水市、志賀町)では、 ほぼ全域が断水している状況です。仮復旧は2月末以降になる見通しです。 (石川県災害対策本部資料の断水戸数データを用いてMANDARA10で作成) |
【水道の復旧】
羽咋市や中能登町では、地震直後に7,000戸を超える断水が発生していましたが、1月中に復旧しました。 人口規模の大きい七尾市では地震直後は20,000戸以上が断水しましたが、 2月中頃には半数、2月末には8割が復旧しています。 特に被害の大きかった輪島市や珠洲市では、復旧が遅れています。 (石川県災害対策本部資料の断水戸数データを用いて、グラフはエクセル、地図はMANDARA10で作成) |
【長周期地震動】
高層ビルでは船のように揺れることがあります。東京23区では「階級2」の長周期地震動となりました。 高層ビル40階(東京都文京区)の様子(こちら)わかりにくいがカーテンが揺れている。 (気象庁WEB資料より ) |
【ボランティア?義援物資】
石川県では、災害対策本部設置と同時に県災害ボランティア本部が立ち上がりました。 当初は、救助活動を優先するため、ボランティアの募集は行わず、 市役所、町役場、社会福祉協議会への電話の問い合わせもしないで欲しいと WEBで告知しました(1月4日段階)。 これは、2016年熊本地震の際に、ボランティアの車両で交通渋滞が発生し、 緊急車両の通行に支障が出たことを踏まえてのことと思います。 その後、1月6日からはホームページから事前登録を開始しました。 ボランティア受け入れの準備が整い次第、電子メールで通知することになりました。 災害ボランティアの登録者数は、2月16日段階で26,000人に達したようです。 七尾市、穴水町、志賀町を対象として、 一般のボランティア活動がはじまったのは、1月27日からです。 特に被害が甚大だった珠洲市では2月3日から、 輪島市では2月10日からボランティアの受け入れがはじまりました。 災害義援物資について、石川県庁では、事前に電子申請(電話)で受け付け、 企業?団体?自治体からのまとまった義援物資を受け入れていますが、 個人からの提供は受け付けていません。 また、石川県庁に直接郵送で送らないように呼びかけています。 個人レベルの義援物資は仕分けに多大な労力がかかります。 支援者の善意が、逆に被災地に負担をかけることになってしまいます。 団体からの食料品の支援については、保存の効くものが求められます。 熊本地震の時に避難所に届けられたおにぎりが大量に廃棄されることもありました。 それが善意であることがわかっていても、 誰が握ったかわからないおにぎり、いつ作られたかわからないおにぎり、 あなたは口にすることができますか? 山崎パン、フジパン、敷島パンは被災地に菓子パンを送りました。 日清食品、エースコックはカップ麺を、日本コカ?コーラやサントリーは水を送りました。 普段、市販されているものなら、安心して食べることができそうです。 災害時の企業の救援体制を積極的に評価し、今後に備えることが大切と考えます。 |
【救急?救助活動の応援】
輪島市、珠洲市を対象とした都府県大隊の応援(航空隊は含まず) 参考:総務省消防庁、令和6年能登半島地震による被害及び消防機関等の対応状況(第62報)
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【行政職員の応援】
大規模な自然災害が発生すると市町村の行政機能は麻痺します。 全国38都道府県と19政令市から応援職員が派遣されています(2024年1月31日段階)。 避難所の運営、罹災証明の交付、住家被害認定調査など、あらゆる行政支援を行います。 輪島市には、東京都や大阪府など職員数が多い自治体から応援が派遣されました。 珠洲市には、熊本市や神戸市など近年地震災害に見舞われた政令市から応援が派遣されました。
総務省資料「令和6年能登半島地震における被害状況について(第65報) |
(参考リンク)
石川県緊急時トップページ 珠洲市 輪島市 穴水町 能登町 志賀町 七尾市