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100キロ先の大気を追って地球規模の環境変動を探る
総合教育研究部 自然科学部門 坂野井 和代 准教授
日本人女性初の南極越冬隊員としてオーロラの観測に従事。現在はレーザー光を使って地上100キロも彼方の大気を調べ、地球規模の環境の変化を探究している坂野井准教授 。科学リテラシーを高める講義が人気だ。
地上100㎞を調べてわかる地球の大気の大きな繋がり
地表からの高度がだいたい30㎞から100㎞ぐらいの中層大気の研究をしています。ここでは大規模な大気の流れが存在しており、直接出かけて観測することはできないので、光を使って温度や風速、大気の密度などを観測し、解析しています。
観測にあたっては、「ライダー」と呼ばれる観測機を使ってレーザー光を地上から発射します。レーザー光が大気の粒子に当たり、散乱によって戻ってきた光には大気についてのさまざまな情報が含まれているので、それを取り出して調べるのです。
中層大気については普通に観測するのは難しいため、まだわかっていないことが多いのですが、ここでの大気の動きは、異常気象や気候変動など地球規模の環境問題と密接に関わっている可能性があります。大気は大きく繋がっていますから、地表面の変化が中層大気にまで影響したり、逆に中層大気の影響が地表に及ぶというのは十分に考えられることです。
それを実感した出来事がありました。南極にできるオゾンホールが一度、崩れたことがあったのです。専門用語では、「成層圏突然昇温」といい、成層圏の気温が突然上昇する現象です。北極では非常にポピュラーな現象ですが、南極では少なくともここ50年ほどは起きたことがなかったのです。それが起きたときに南極だけでなく、北極にも影響があり、地球を覆う大気の大きな繋がりを感じたものです。
女性初の越冬隊員として南極で1年半を過ごす
自然に対する興味は子どものころから強く、「山はなぜああいう形なのか」とか、「雲はどうしてあのように流れていくのか」と空を見上げては思っていました。
そのうち地球上で一番珍しい自然がある場所に行ってみたいと考えるようになり、興味を持ったのが南極でした。本気で南極に行こうと考えるようになったのは高校生になってからで、東北大学理学部に行けば夢が叶うという情報を得て、とうとう大学院の博士課程の1年生のとき、日本人女性初の南極越冬隊員に選ばれました。南極に滞在したのは1年半。総勢40人のうち女性は私を含め二人だけで、主にオーロラの観測を行いました。
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北海道に設置したカメラで薄明時に光る夜光雲の出現を待つ
現在は中層大気の観測とともに夜光雲の観測を行っています。夜光雲は高度82~84㎞という極端に高い高度で発生し、通常、北極や南極など緯度が50度以上の場所で夏の薄明時に光る特殊な雲です。それが地球温暖化の影響で低緯度まで広がってきているとの報告があり、日本でも見える可能性があるため、北海道の母子里にある名古屋大学の観測所にカメラを設置して共同で研究しています。普段はリモートコントロールでデータが送られてきますが、年に1回は現地に行っています。2015年6月21日には日本初の夜光雲観測に成功しました。
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※ 「日本初の夜光雲観測」に関するニュースは、以下をご覧ください。坂野井和代准教授(総合教育研究部自然科学部門)の研究グループが日本国内で初めて夜光雲の観測に成功
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- 文総合教育研究部 自然科学部門 坂野井 和代 准教授
- 1995年東北大学理学部卒。2002年同大学院博士課程修了。理学博士。2005年駒澤大学専任講師、2009年より現職。
※ 本インタビューは『Link Vol.4』(2014年5月発行)に掲載しています。掲載内容は発行当時のものを一部変更しています。
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