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DATE:2018.11.16研究レポート
研究こぼれ話『花粉は動かない。』
法科大学院 柴谷 晃 教授
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- 法科大学院 柴谷 晃 教授
弁護士業と掛け持ちの実務家教員なので、研究と言っても、弁護士の仕事が暇なときに、紀要に研究ノートを投稿している程度だ。最初の紀要に「民法186条2項の推定規定の性質は、どの教科書でも例外なく、真正の法律上の推定の典型例と挙げているが、そうではなくて暫定真実の規定だ」という話を載せた。同条項が真正の法律上の推定だという見解を前提として真正の法律上の推定と暫定真実との違いを理解しようとしても、私にはさっぱり分からず、自分の無能を実感していた。しかし、よくよく考えてみたら、教科書の記述の方が間違いだということに気付いた。兼子一先生という民事訴訟法学の泰斗が真正の法律上の推定だと言っているものだから、あらゆる教科書が、何も考えずに兼子先生の見解を引き写していただけなのだと思う。偉い人の書いていることは何でも正しいのだろうという思い込みがある。そこで痛感したのは、偉い人の言うことこそ鵜呑みにしてはいけないということである。
今年2月に逝去された科学教育者の板倉聖宣さんの本の中に、「理科の教科書のブラウン運動の説明で、『水に花粉粒を落とすと水の分子の衝突によって激しく動く』と書いてあるので、生徒の前で実験して見たが、花粉がちっとも動かないので、自分の実験技術が稚拙なのだと思っている先生方が沢山いる。動くのは花粉自体ではなくて、花粉が壊れて花粉の中から出てきた微粒子なのである」とあったのを思い出した。誤解を招くような教科書の記述の方が悪い。教科書に書いてあることだから全て正しいなんて、思わない方がよい。
※ 本コラムは『学園通信334号』(2018年10月発行)に掲載しています。掲載内容は発行当時のものです。
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