ニルスのふしぎな旅
原作は、”Nils Holgerssons underbara
resa genom Sverige”です。 英語版では”The Wonderful Adventures of Nils”で直訳すると「ニルスの素晴らしい冒険」 ドイツ語版では、”Die wunderbare Reise des kleinen Nils Holgersson mit den Wildg?nsen”で これを訳すと、「小さいニルスホルゲソンとガンの素晴らしい旅行」となります。 日本語版では、”underbara”を「ふしぎな」としたようですね。 物語の内容に合わせて「ニルス?ホルゲソンのワクワクするスウェーデン冒険旅行」としたいですね。 |
小学校の地理読本 |
「ニルスのふしぎな旅」は、スウェーデンの小学校の地理読本として書かれたものです。原作の全訳を読んでみるとわかりますが、地方名や湖名、河川名、都市名が非常に多く登場します。物語は、魔法によって、小人にされたニルスがガチョウに乗って、雁の群れに加わり、スウェーデン各地を旅をするわけですが、読むことによって、スウェーデンの地理が学べる内容となっています。
作者のラーゲルレーヴは、高等師範学校(教員養成学校)を1885年に卒業して、10年ほど教員をしています。投稿した小説が受賞してからは、作家に専念するようになり、商業的にも成功をおさめています。19世紀末から20世紀初等にかけては、欧米において「新教育運動」が活発となった頃で、スウェーデンにおいても、児童の自主的、主体的な活動を尊重する「児童中心主義」の考え方が主流になりました。1900年には、社会運動家?教育学者エレン?ケイが『児童の世紀』を著しています。教師による教授中心の堅苦しい教科書から、児童?生徒を中心にした新しい教科書が望まれ、ラーゲルレーヴに、地理読本の執筆が依頼されたわけです。ラーゲルレーヴは、執筆にあたり、スウェーデン国内を取材してまわったようです。それぞれの地方の地図を眺めながら、物語の展開を練りました。「ニルスのふしぎな旅」は、上空から地上を鳥瞰した描写が多いのも特徴ですが、このアイデアはラーゲルレーヴによるものです。
登場人物
ニルス?ホルゲソン
スウェーデン南部スコーネ地方の14歳の少年。物語の冒頭ではひどい書かれ方で、「あまり役に立たない子であった」「食べて寝るほかは、悪さをすることしか考えていなかった」となっています。日曜日なのに教会もいかない。家畜に悪さをしたり、人に意地悪をするニルスに母親も嘆いていました。新しい教科書ができた時、「学校で使う地理読本の主役がこんな悪ガキがいいのか?」という声もあったようです。 ニルスはトムテ(妖精)に意地悪をしようとして、逆に魔法をかけられ、体が小さくなってしまいます。動物の声もわかるようになりましたが、猫や家畜にこれまでの悪事を非難され、小さくなったことをからかわれ、ガチョウのモルテンに乗って、大空に飛び立つことになります。
モルテンニルスの家で飼われていたガチョウです。大空を飛ぶことはできないはずが、上空を通過するガンの群れに声を掛けられて、スウェーデン北部のラップランドまで行くことを決意します。当初は、飛ぶことに慣れていないため、苦労をしますが、疲れ果ててぐったりしているところをニルスに助けられ、ニルスの相棒として、ラプランドに向かうことになります。 |
ガンの群れのリーダーです。経験豊富で統率力があります。ニルスとモルテンがラップランドまで同行することを許可しました。日本版アニメでは「アッカ隊長」と呼ばれ、旅行中のニルスの先生役でもあります。名前はスウェーデン最高峰のケブネカイセ山(2103m)に由来します。 |
ガンの群れ6羽の名前です。フィンランド語で1、2、3、4、5、6の意味です。名前を覚えることで、フィンランド語の6まで数えられることになりますが、ラーゲルレーヴがどうしてそうしたのか、よくわかりません。なお、物語が書かれた頃のフィンランドはロシアの支配下で、まだ独立してはいませんでした。 |
ニルスの旅の経路を 地図化しました。 反時計回りに スウェーデンを一周します。 最初は、 南部の農牧業、 湖岸の庭園や城 やがて中部の製材業、 南北の交通網や鉱業 北部ラップランドの 新しい鉱山というように 地方毎に地理的テーマは 微妙に変化します。 左図では 湖が表現できなかったので、 GISデータでみてください。 とてもとても苦労して作った kmlデータは、こちら↓ ニルスの旅のコース 関連地名 スウェーデンの地方図 (20世紀初頭) |
各章の構成
ニルスの旅は、南部のスコーネ地方を3月20日(春分の頃)にスタートして、6月18日(夏至の前)に北部のラップランドに到着し、しばらく滞在したのち、11月9日(立冬の頃)に、スコーネ地方に戻ります。 |
原作の章タイトル(スウェーデン語) | 香川節訳(1982年) | 菱木晃子訳(2007年) | 山崎陽子訳(2011年) | ||
1 | Pojken | 3月20日 | 少年 | 男の子 | 少年 |
2 | Akka fr?n Kebnekajse | 3月21日 | ケブネカイセのアッカ | ケブネカイセ山のアッカ | ケブネカイセのアッカ |
3 | Vildf?gelsliv | 3月24日 | 野の鳥の生活 | 野鳥の暮らし | 野鳥の生活 |
4 | Glimmingehus | 3月28日 | グリミンゲ城 | グリミンゲ城 | グリミンゲヒュース城 |
5 | Den stora trandansen p? Kullaberg | 3月29日 | ツルの大舞踏会 | 〈ツルの大舞踏会〉 | キュッラベリの大舞踏会 |
6 | I regnv?der | 3月30日 | 雨の日 | 雨の日に | 雨の中 |
7 | Trappan med de tre trappstegen | 3月31日 | 3つの段々 | 三段の大きな階段 | 三段の階段 |
8 | Vid Ronneby ? | 4月1日 | ロンネビィ川で | ロンネビー川 | ロンネビュー川 |
9 | Karlskrona | 4月2日 | カールスクローナ軍港 | カールスクローナ | カールスクローナ |
10 | Resa till ?land | 4月3日 | エーランド島へ | エーランド島へ | エーランド島への旅 |
11 | ?lands s?dra udde | 4月3日 | エーランド島の南端 | エーランド島の南端で | エーランド島南端 |
12 | Den stora fj?rilen | 4月6日 | 大きなチョウ | 大きな蝶 | 大きな蝶 |
13 | Lilla Karls?n | 4月8日 | 小カルル島 | 小カール島 | 小カール島 |
14 | Tv? st?der | 4月9日 | 二つの都 | 二つの町 | 二つの町 |
15 | Sagan om Sm?land | 4月12日 | スモーランドの物語 | スモーランド地方の物語 | スモーランド物語 |
16 | Kr?korna | 4月13日 | カラス | カラス | カラス |
17 | Den gamla bondkvinnan | 4月14日 | 農家のおばあさん | 農家のおばあさん | 農家の老婆 |
18 | Fr?n Taberg till Huskvarna | 4月15日 | ターベリからヒュスクヴァルナへ | ターベルイ山からヒュースクヴァーナへ | ターベリからヒュースクヴァーナへ |
19 | Den stora f?gelsj?n | 4月17日 | 大きな鳥の湖 | 大きな〈鳥の湖〉 | 鳥のつどう湖 |
20 | Sp?domen | 4月22日 | 予言 | 予言 | 予言 |
21 | Vadmalsv?den | 4月23日 | 手織りの布 | 手織りの布 | 粗織りの布 |
22 | Karrs och Gr?f?lls saga | カルルと灰毛の話 | カッルと<灰毛>の話 | カルとグローフェルの物語 | |
23 | Den sk?na lustg?rden | 4月24日 | 美しい庭園 | 美しい庭園 | 美しい庭園 |
24 | I N?rke | 4月27日 | ネルケで | ネルケ地方で | ネルケ地方 |
25 | Islossningen | 4月28日 | 氷割れ | 氷割れ | 大解氷 |
26 | Arvskiftet | 4月28日 | 財産の分配 | 財産分け | 遺産分け |
27 | I Bergslagerna | 4月28日 | ベリィラーゲルナで | ベルイスラーゲルナ鉱業地帯で | バリスラーゲン鉱業地帯 |
28 | J?rnverket | 4月28日 | 製鉄所 | 製鉄所 | 製鉄所 |
29 | Dal?lven | 4月29日 | ダール川 | ダール川 | ダールエルヴェン |
30 | Brorslotten | 4月29日 | 男の子の分け前 | <息子の分けまえ> | 遺産の分けまえ |
31 | Valborgsm?ssoafton | 4月30日 | ヴァールボリィ祭りの夜 | ヴァールボルイの夜祭り | ヴァルボリスメッソアフトン |
32 | Vid kyrkorna | 5月1日 | 教会堂 | さまざまな教会 | 教会 |
33 | ?versv?mningen | 5月1日 | 洪水 | 洪水 | 洪水 |
34 | Sagan om Uppland | 5月5日 | ウプランドの伝説 | ウップランド地方の話 | ウップランド物語 |
35 | I Uppsala | 5月5日 | ウプサラ | ウプサラ | ウップサーラで |
36 | Dunfin | 5月6日 | ダンフィン | ドゥンフィン | ドゥンフィン |
37 | Stockholm | 5月7日 | ストックホルム | ストックホルム | ストックホルム |
38 | Gorgo, ?rnen | ワシのゴルゴ | ワシのゴルゴ | ワシのゴルゴ | |
39 | Fram ?ver G?strikland | 6月15日 | イエストリークランドの空の旅 | イエストリークランド地方をこえて | イエストリークランドへ |
40 | En dag i H?lsingland | 6月16日 | ヘルシングランドの一日 | ヘルシングランド地方での一日 | ヘルシングランドの一日 |
41 | I Medelpad | 6月17日 | メーデルパッドで | メーデルパッド地方で | メーデルパードで |
42 | En morgon i ?ngermanland | 6月18日 | オンゲルマンランドの朝 | オンゲルマンランド地方の朝 | オンゲルマンランドの朝 |
43 | V?sterbotten och Lappland | 6月18日 | ヴェステルボッテンとラップランド | ヴェステルボッテン地方とラップランド地方 | ヴェステルボッテンとラップランド |
44 | ?sa g?sapiga och lille Mats | ガチョウ番のオーサと弟のマッツ | ガチョウ番のオーサと弟のマッツ | ガチョウ番のオーサと弟マッツ | |
45 | Hos lapparna | ラップ人とともに | サーメ人のもとで | ラップ人とともに | |
46 | Mot s?der! Mot s?der! | 10月1日 | 南へ南へ | 南へ!南へ! | 南へ!南へ! |
47 | S?gner fr?n H?rjedalen | 10月4日 | ヘリエダーレン地方の伝説 | ヘリイェダーレン地方の伝説 | ハリエダーレン伝説 |
48 | V?rmland och Dalsland | 10月5日 | ヴェルムランドとダールスランド | ヴェルムランド地方とダールスランド地方 | ヴェルムランドとダールスランド |
49 | En liten herrg?rd | 10月6日 | 小さな屋敷 | 小さな屋敷 | 小さな屋敷 |
50 | Skatten p? sk?ret | 10月7日 | 岩礁の上の宝物 | 岩礁の宝物 | 岩礁島の宝物 |
51 | Havssilver | 10月8日 | 銀色の海の幸 | 銀色の海の幸 | 海でとれる銀 |
52 | En stor herrg?rd | 大邸宅 | 大きな館 | 大きな屋敷 | |
53 | Resan till Vemmenh?g | 11月3日 | ヴェンメンヘーイへの旅 | ヴェンメンヘーイ丘への旅 | ヴェンメンヘグへの旅 |
54 | Hos Holger Nilssons | 11月8日 | ホルゲル=ニルソンの家 | ホルゲル?ニルソンの家 | ホルゲル?ニルソンの家で |
55 | Avsked fr?n vildg?ssen | 11月9日 | ガンの群れとの別れ | ガンたちとの別れ | ガンとの別れ |
* | En historia fran Halland | ハランド物語 | |||
*Svenska Turistf?reningens ?rsskrift(1910)スウェーデン観光協会年報 |
鳥瞰的表現について
モルテンにつかまって空に飛び立ったニルスが恐る恐る下を見ると、まるで、パッチワークキルトのような景色が広がっていました。 | |
?Vad ?r det f?r ett stort,
rutigt stycke tyg, som jag ser ner p??? sade pojken f?r sig sj?lv utan
att v?nta, att n?gon skulle svara. Men vildg?ssen, som fl?go omkring honom, ropade genast: ??krar och ?ngar. ?krar och ?ngar.? D? f?rstod han, att det stora, rutiga tygstycket var den platta sk?nska jorden, som han for fram ?ver. Och han b?rjade begripa varf?r den s?g s? m?ngf?rgad och rutig ut. De klargr?na rutorna k?nde han f?rst igen: det var r?g?krarna, som hade blivit s?dda f?rra h?sten och hade h?llit sig gr?na under sn?n. De gulgr?a rutorna voro stubb?krar, d?r det f?rra sommaren hade vuxit s?d, de brunaktiga voro gamla kl?vervallar, och de svarta voro tomma betland eller uppl?jda tr?des?krar. De rutorna, som voro bruna med gula kanter, voro s?kert bokskogar, f?r i s?dana st? de stora tr?den, som v?xa mitt i skogen, nakna om vintern, men sm?bokarna, som v?xa i skogsbrynet, beh?lla de torra, gulnade bladen ?nda till v?ren. |
「下に見える真四角の布のようなものはなんだろう?」 少年はつぶやいた。 そばを飛んでいたガンがすぐに答えた 「畑と牧草地!畑と牧草地!」 少年は気がつきました。大きなチェックの布地のように見えたのは、実はスコーネの平らな土地でした。 そして、模様や色についても次第にわかってきた。 最初に緑色がわかった。あれは「ライ麦畑」で、去年の秋に種をまいて、雪の下でも緑色だったのだ。 少し黄色が混じった灰色は、去年の夏に穀物を刈り取った後だ。 黒っぽいのは草のない牧草地あるいは耕した休閑地。 黄色の縁取りの茶色は確かにブナ林だ。森の中ほどの大きなブナの木は冬に葉を落とすが、周りの小さなブナの木は春までカラカラの黄色の葉を残すからね。 |
スウェーデン南部スコーネ地方の20世紀初頭の農業景観がかかれています。 (Google翻訳を駆使しました) |
ニルスたちがヴェストマンランドを北に向かう時、西風にあおられて東に流されてしまします。その時の地形描写です。 | |
?Det h?r landet ?r lika
randigt som mors f?rkl?de,? sade pojken. ?Jag undrar vad det ?r f?r
slags r?nder, som stryker fram ?ver det.? ??ar och ?sar, v?gar och j?rnv?gar,? svarade vildg?ssen. ??ar och ?sar, v?gar och j?rnv?gar.? Och detta var verkligen sant, f?r n?r g?ssen kastades mot ?ster, hade de f?rst farit ?ver Hedstr?mmen, som g?r fram mellan tv? ?sar och ledsagas av en j?rnv?g. Sedan hade de r?kat Kolb?cks?n, som har en j?rnv?g p? ena sidan och en ?s med en landsv?g p? den andra. D?rp? hade de m?tt Svart?n, som ocks? f?ljes av ?sar och landsv?gar, s? Lill?n med Badelunds?sen och sist Sag?n, som har b?de landsv?g och j?rnv?g p? h?gra stranden. |
「まるで母さんのプリーツエプロンみたいだな」と少年は思った。 「このストライプ模様はなんだろう?」 「川と山、道路と鉄道」「川と山、道路と鉄道」とガンは答えた。 その通りだった。ガンの群れは、西風にあおられ東に流され、 最初にヘード川を越えた。川は二つの尾根の間を流れ 川にそって鉄道が敷かれていた。 次に超えたのはコールベック川。川の片側には鉄道が沿い、対岸には尾根と平行に道路があった。 そして、スヴァルト川を越えたが、鉄道と道路が川に沿っていた。 最後に、リッル川、バーデルンドの尾根、サーグ川を越えた。 この川の右岸にも道路と鉄道があった。 |
尾根と谷が交互に南北に連なっている様子です。谷に交通網が整備されているのは、北に鉱山があるからです。 |
ウップランドの伝説
スウェーデンの各地方を擬人化して、ストックホルム発展の歴史が記述されています。以下は要約です。 |
ウップランドはその昔、貧しくみじめだった。南のスコーネに土地をくれと頼んだ。するとスコーネは土をくれた。次に西ヨータランドに「土地を恵んでくれ」と懇願した。土地はくれなかったが小川をもらった。隣のハランドも土地はくれなかったが、いくつか岩山をくれた。ボーヒュースレーンからは、強風を防ぐための小石をたくさんもらった。ヴェルムランドからは、鉄鉱石がとれる丘陵をひとつ、東ヨータランドからは、森を少しわけてもらった。スモーランドからは、苔と砂利とヒースの丘を、シェーデルマンランドからは、メーラレン湖のフィヨルドを、ダーラナからは、ダール川を、ネルケからはイェルマン湖岸の湿地をもらった。 もらいものは、ガラクタばかりであったが、上手に配置して利用した。鉄鉱石と燃料の木材、水力発電を利用して製鉄業を発展させた。湖の美しい庭園をつくり、海岸付近にも島を作って漁業も発展、平野には土を入れて豊かな土地になった。結果的にスウェーデンで一番豊かな場所となり王都(ストックホルム)が置かれることになる。 |
参考文献
村山朝子(2005)「『ニルス』に学ぶ地理教育」、ナカニシヤ出版
菱木晃子訳(2007)「ニルスのふしぎな旅」上巻?下巻、福音館書店 (駒大図書館にあり)
山崎陽子訳(2011)「ニルスの旅-スウェーデン初等読本-」、プレスポート?北欧文化通信社(駒大図書館にあり)