貞観政要(湯浅 邦弘著)
Date:2019.12.01
書名 「貞観政要(ビギナーズ?クラシックス||ビギナーズ?クラシックス . 中国の古典)」
著者 湯浅 邦弘
出版者 角川文庫
出版年 2017年1月
請求番号 222.04/286
Kompass 書誌情報
『貞観政要』は東アジアにおける帝王学の白眉として名高い中国古典の一書である。唐朝第2代皇帝、太宗(李世民、在626-649)と臣下の問答を記録したもので、著者である呉兢(ごきょう)は太宗の死後に編纂し、後の皇帝にこれを献上したという。「貞観の治」と称される中国史において最も華やかな一時代を築き上げた太宗。その理念が余すところなく記された本書は、中国のみならず日本でも広く愛読された。源頼朝、徳川家康、明治天皇らが学んだほか、現代においても学術書から実用書の類にいたるまで、関連する書籍は絶えず出版されている。今回はあまたある関連本のうち、入門書として最もお勧めしたい一冊を冒頭に掲げている。
帝王学とはおよそ無縁の筆者であるが、本コラムの執筆依頼を受けた直後に本書の最も有名な一節、「草創与守成孰難」(創業と維持とはどちらが難しいか)を目にする機会があった。漢文教材を作成するため渉猟していた入門書で、選択の疑問を表す「孰」(いづれ)の例文として掲載されていたためである。はじめは練習問題にちょうどいいという程度の関心であったが、これも何かの縁と思い通読した。すると、君主と教員、立場は違えども戒めとすべきことにさしたる違いはないとわかり、ここで紹介しようと思い立った。
例えば、本書には諫言を真摯に受け止めるべきことが随所に説かれている。授業アンケート期間の真っただ中、厳しいコメントには目を背けたくなることもあるが、太祖や賢臣たちはそのような態度を常に戒める。また『書経』からの引用、「不学牆面」(勉強しなければ垣に向かって突っ立っているようなもの)に示された飽くなき学びの姿勢には心を打たれた。しかしながら、これほどの名君も後継者の育成には成功していない。偉大な君主論をもってしても一筋縄ではいかない難業、それが教育なのであろう。
仏教学部 准教授 山口 弘江