平成28年度 9月法科大学院入学式 学長式辞
駒澤大学法科大学院へのご入学、誠におめでとうございます。本学法科大学院は、日本で初の9月入学を始めた大学です。本年が4年目になりますが、教職員一同、喜んでいるところです。ご承知のように、9月入学の方は、今からお話をするのもいかがとは思いますが、卒業も9月となりますので、慌ただしく厳しい修了試験後すぐに司法試験を受けるのではなく、余裕をもって、臨むことができるなど大きなメリットがあります。
本日の入学式は駒澤大学にとりましても、日本の法曹界にとりましても、一昨昨年が第一歩であるならば、本日は、大きな第四歩目ということになります。お一人でありますので最少人数でありますが、本学法科大学院にとりましては、大きな歴史の第一歩であり、大変意義深いことであります。とはもうせ、どうぞ、肩を張らずにゆったりと構えていただき、勉学に勤しんで頂きたいと思います。私たちはできうるかぎり良い環境を整えていきたいと思っております。
ここで、本学がいかに豊かな伝統と歴史を持った大学であるかをご紹介しておきましょう。言うまでもなく本学は禅?仏教の大学です。まず、江戸?東京の開闢の祖とされる太田道灌が江戸城を造り、その傍らに本学の前身の前身である吉祥寺という禅寺を建てました。今から550年ほど前のことです。それから130年後の1592(文禄元)年、徳川家康が江戸に入城したころです、その拡張工事のために堀の外に出た、吉祥寺の境内に学寮(のちの旃檀林)が建てられます。420年ほど前のことです。水道橋のほとりです。
江戸時代はじめの1667(明暦3)年、振り袖火事の炎は天守閣にまでおよびました。これにより城周辺の寺は移転することになり、吉祥寺と旃檀林は駒込(本郷の近く)に移転します。学林は東大の前身であります幕府の昌平坂学問所とその学の高さを競ったといいます。
そして1882(明治15)年10月15日、麻布の北日ヶ窪に校地を求め、寺から独立して、曹洞宗大学林専門(学)本校が開校しました。現在の六本木ヒルズ?テレビ朝日のあたりです。開校して134年を迎えました。
その30年後、1913(大正2)年に麻布の北日ヶ窪から駒沢の地に移転してきました。今から103年前のことです。ちょうど、隣には東京ゴルフ倶楽部が日本人初の設計のゴルフ場を出発させたばかりでした。ご存じのように現在の駒沢オリンピック公園です。
このような伝統と歴史の中で、駒澤大学は、仏教の教えと禅の精神を建学の理念、つまり教育?研究の基本としてきました。この建学の理念は、永きにわたり「行学一如」という言葉で表されてきました。この言葉は、曹洞宗の開祖?道元禅師が示された、最も根本的な教えである「修証一等」(しゅしょういっとう)という言葉を大学の教育?研究の基礎としてあらためて表現し直したものです。道元禅師は「修」(坐禅修行)と「証」(悟り)は一体であり、悟りは彼方にあるのではなく、坐禅修行そのものが悟りであるとされ、「行」の面を「悟り」にまで高めたのであります。
本学はこれの大学バージョンとして、「行学一如」を掲げております。大学では「行」とは自己陶冶(とうや)、すなわち自分をより優れた人間として育て上げる自己形成のこと、「学」とは学問研究のことです。そして「行学一如」とは、「自分をより優れた人間に成長させることと、学問研究に励むことは一つのことである」としました。
この「行学一如」は、仏教の教えと禅の精神が息づく高い倫理観に支えられています。この倫理観は、少しも難しいものではなく、思いやりや気配りの心を大切にしようという人間として当たり前のことを求めているにすぎません。ただし、当たり前のことであっても、ついつい忘れてしまうことでもあります。仏教は、あらゆるものを大切に扱おうという慈悲の心を教えます。「行学一如」に従えば、この慈悲の心も、人から教わったまま頭の中にあるだけで行動を伴わなければ何ものでもありません。この学ぶ姿勢と不可分の行動力の重視、つまり「学」と不可分の「行」の重視こそ、駒澤大学の特色であります。
本学の法科大学院はこの建学の理念「行学一如」、学問研究をアクティブに実践に移す、ということを受けて、「理論と実務を架橋する教育」をモットーにしております。そして、世田谷区唯一の法科大学院大学院です。駒沢法曹の世田谷地域への貢献、全国曹洞宗1万4千か寺とその檀信徒を通じた地域?地方への貢献も目指しております。
本学の法科大学院は発足以来、五十余名の司法試験合格者を出しております。
法科大学院につきましては、昨今、諸般の事情により、法曹志願者の激減や司法試験合格者の削減などが相次ぎまして、かなり厳しい状況になっております。これに屈して、撤退を余儀なくされた法科大学院も多数に上りました。しかし、本学は一歩たりとも引くことはいたしません。
本学はご承知のように、駅伝?野球?サッカー?吹奏楽などサークル活動にも力を入れている大学ですが、その前に前述のように420年以上の伝統を持つ、江戸時代以前からの学問の府であります。まず、「学」をなによりも重視する大学です。法科大学院の存在しない大学は、総合大学といえるでしょうか。法科大学院はシンボリックなものであり、ステータスであります。その存在は「学」を重んずる大学としての一流を意味します。
全力を挙げて、存続を図るのは当然なことであります。駒澤大学建学の精神と理想を体得した有為な法曹を、引き続き養成してまいります。どうぞ、ご安心下さい。そしてその改革の一つが、この9月入学であります。
これまで、堅いことを述べてまいりましたが、肩を張らずに、のびのびと学習していただき、駒澤大学の建学の理念、本学法科大学院の理念を体得した人間味あふれる法曹に育ってほしいと思います。全学を挙げて全面的にバックアップしてまいります。この緑豊かな静かな環境の中に、どっかりと腰を落ち着けて、勉学に勤しんでください。本日は誠におめでとうございます。
平成28年9月17日
駒澤大学学長
廣 瀬 良 弘